片付けしながら宅浪生

古家を掃除しながらゆったり受験勉強

懐古、哀愁

一応文学部志望なのでエッセイ調で書いてみた。

 

壊れた電子レンジの買い替えの為に市の中心部まで歩いた。ここに来て数ヶ月経つが、スーパーと家の間以外、あまり散策はしていなかった。夏に漂う金魚達 ~ちょこっと地域紹介~ - 片付けしながら宅浪生で紹介した白壁の町並も軽くしか通っていなかった。

 

天気も良かったので少し遠回りをしてみた。平日の昼間、あまり人通りはない。家を出てとりあえず駅の方向に向かう。その途中に白壁の町並がある。小学校低学年くらいの時以来、久々にそこを歩いた。当時の記憶が少しだけ蘇る。その時より道も建物も小さく感じた。
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白壁の町並を超えて駅の方に向かう。家族で唯一のドライバーである父が行けない時は、新幹線と電車を乗り継いで来ていた。祖母が元気だった頃はよく車で駅まで迎えに来ていた。稀に家まで歩いて行ったが、幼かった私はその道のりがとても長く感じた。休み休みで歩いた道のりを軽快な足取りで進んで行った。

そこから家電屋までは思い出の欠片もない。よくある駅前から中心部までの道のりだった。

 

でもまたそこから帰る時、また昔の記憶がより色濃く滲み出てきた。1歩踏むごとに記憶が広がっていた。子供の頃に見た景色はその時の感情まで引き出してくる。ずんずん進みながらも時々振り返る母親を見て、大きくなったらあんな速く歩けるのかとわくわくしたり、夏の祭りで「子供のビール」を飲んでいつか飲む味を確かめたりしていた。あの時は大人になりたくて仕方なかった。

 

あれから十年ちょっと。あのころ夢見た二十歳手前の自分はここで足踏みしている。大きくなりたかった男の子は、あの頃に戻りたいとまで思うようになった。白壁の間を抜け、家までの緩い坂を上るにつれて足取りは重くなり、誰もいない家のドアを開ける時には、特大のため息が口からゆっくりと吐き出された。